【入門】二つの顔を持つ「使用人兼務役員」:仕組みと判定のポイントを完全解説

税務

はじめに:役員なのに「部長」?不思議な二重人格制度

ビジネスの世界には、経営を担う「役員」でありながら、現場でバリバリ働く「部長」や「支店長」としての顔も併せ持つ人たちがいます。これを専門用語で「使用人兼務役員(しようにんけんむやくいん)」と呼びます。

いわば、「経営側の顔」と「現場(従業員)側の顔」を同時に持つ、組織における二重人格のような存在です。

なぜこのような制度があるのでしょうか。それは、特に中小企業において、役員が経営判断だけでなく、実情として現場の指揮や実務を支えているケースが非常に多いからです。この制度は、そうした「現場で汗をかく役員」に対し、従業員としての正当な報酬(給与やボーナス)を認め、適切な処遇を与えるために存在しています。

では、具体的にどのような状態を指して「兼務している」と呼ぶのでしょうか。その条件を見ていきましょう。

「使用人兼務役員」の定義:2つの必須条件

使用人兼務役員とは、役員のうち部長、課長、その他これらに準ずる「職制上の地位」を有し、かつ常時「使用人としての職務」に従事する者を指します。しかし、実質的な経営権を持つ者や特定の職位にある者は、たとえ現場仕事をこなしていても税務上は「普通の役員」として扱われます。

税務上、使用人兼務役員として認められるためには、形だけの肩書きではなく、実態が伴っている必要があります。まずは以下の2つの条件をチェックしてみましょう。

  • 職制上の地位を有していること・・・ 部長、課長、支店長、工場長など、会社の組織図(職制)において従業員としての具体的な役職についている必要があります。
  • 常時、使用人としての職務に従事していること ・・・単に名前を貸しているだけではなく、日常的に他の従業員と同じように現場の仕事や管理業務に従事していることが求められます。

【ここが「なるほど!」ポイント:肩書きがない小さな会社は?】

「うちは小さい会社だから、そもそも部長なんてポストは決まっていないよ」という場合も安心してください。事業内容が単純だったり、人数が少なかったりして職制が決まっていない法人でも、「常時従事している職務の内容が、他の使用人の職務と実質的に同じである」と認められれば、兼務役員として扱うことができます(法人税基本通達9-2-6)。形よりも「実態」を重視してくれる、優しいルールですね。

法人税基本通達9-2-6 適用判定フローチャート


以下のすべてのステップで「該当しない・はい(進む)」となれば、明確な肩書き(部長職など)がなくても、使用人兼務役員として認められる可能性が高いです。
【Step 1】 役職(トップマネジメント)の確認
その役員は、以下のいずれかの役職に該当しますか?

  • 代表取締役、代表理事
  • 副社長、専務、常務
  • 監査役、監事
  • 清算人、合名・合資会社の業務執行社員
    • 該当する → 【適用不可】 どのような働き方でも兼務役員にはなれません。
    • 該当しない(平取締役である) → 【Step 2へ進む】

【Step 2】 会社の規模・体制の確認(通達9-2-6の前提条件)
貴社は、以下の状況に当てはまりますか?

  • 事業内容が単純であり、使用人(従業員)の数が少ない。
  • その事情により、「部長」「課長」「係長」といった職制上の地位(役職)を特段定めていない。
    • いいえ(組織図があり、部長等のポストが存在する) → 通達9-2-6ではなく、通常のルール(職制上の地位への就任)が必要です。
    • はい(役職制度がない小規模組織である) → 【Step 3へ進む】,,

【Step 3】 業務内容の「同一性」確認
その役員が従事している業務は、「他の使用人(従業員)の職務内容と同様」ですか? (例:他の従業員と一緒に現場作業をしている、他の営業マンと同様にルート営業をしている 等)

  • いいえ(役員独自の経営管理業務が中心) → 【適用不可】
  • はい(他の従業員と同じ仕事をしている) → 【Step 4へ進む】,,

【Step 4】 勤務実態の「常時性」確認
その業務に「常時」従事していますか? (毎日出社して定時まで働いている等。たまに手伝う程度は不可)

  • いいえ(非常勤、または不定期) → 【適用不可】
  • はい(常時従事している) → 【Step 5へ進む】,

【Step 5】 同族会社の持株割合判定(同族判定)
その役員の持株割合は、以下の基準以下ですか?

  • 第1順位〜第3順位の株主グループの持株割合合計が50%超の場合、その役員がそのグループに属している。
  • かつ、役員個人の持株割合(親族等含む)が5%を超えている(またはグループ内で10%超)。 ※簡単に言うと、「オーナー一族で、ある程度株を持っている人」は除外されます。
    • 基準を超えている(大株主である) → 【適用不可】 働き方が従業員と同じでも、税務上は兼務役員になれません,。
    • 基準以下である(株をほとんど持っていない、または同族会社ではない) → 【適用可能】

【判定結果】
Step 1〜5すべてをクリアした場合 ↓「使用人兼務役員」として認められます。 明確な「部長」等の肩書きがなくても、使用人分給与(変動給与)を支給し、損金に算入することが可能です。
⚠️ 運用のための重要ポイント
この通達を適用する場合、税務署に対して「組織図上の役職はないが、実態は従業員と同じである」ことを証明する必要があります。以下の点にご注意ください。

給与規定の整備 組織が小さくても、「給与規定(賃金規定)」は作成してください。「役員であっても、使用人職務に従事する分については、他の従業員と同じ基準(日給月給や時給計算など)で支払う」というルールを明文化し、実際にその通り計算した履歴(タイムカードと賃金台帳)を残すことが不可欠です,。

他の従業員との比較可能性 Step 3の「他の使用人と同様」という部分がキモです。もし会社にその役員以外に従業員がいない場合、「同様の業務を行う使用人」が存在しないため、この通達の適用は難しくなる(比較対象がない)リスクがあります。

肩書きや実態があれば誰でもなれるわけではありません。ここからは、逆に「なれない人」の境界線を探ります。

「なれる役職」と「なれない役職」の境界線

組織のトップや、経営を監督する立場にある人は、現場の「使用人」を兼ねることはできないと法律で決まっています。

カテゴリ使用人兼務役員になれない役職
経営のトップ代表取締役、代表執行役、代表理事、清算人
上位役職副社長、専務、常務(およびこれらに準ずる地位を有する人)
監査・監督職監査役、監事、会計参与、監査等委員である取締役特定取締役(指名委員会等設置会社)
特殊な組織合名会社・合資会社・合同会社の業務執行社員

【注意!】 たとえ肩書きが「取締役」であっても、単に「総務担当」「経理担当」のように役員として特定の部門を統括しているだけの場合は、兼務役員には含まれません。あくまで従業員としてのピラミッドの中に、部長や課長といった「職制上の地位」として位置づけられているかが重要です。

他方、代表取締役の配偶者が「取締役営業部長」などの肩書きを持っていても、実態として従業員と同じレベルで常時勤務していない場合、税務調査で真っ先に狙われます。「名ばかり部長」は否認の対象です。

役職だけでなく、会社の「持ち主」であるかどうかも、非常に重要な判断基準になります。

同族会社における「所有割合」の壁

オーナー企業(同族会社)の場合、「会社の財布」を自由にコントロールできる立場にある人は、従業員扱いを受けることができません。これを判定するのが「50/10/5」という数字のルールです。

少し複雑に見えますが、一緒にステップ形式で分解していけば大丈夫です。以下の3つの条件をすべて満たす役員は、使用人兼務役員になれません。

  1. 第1位〜第3位の株主グループの合計を大きい順に足していき、初めて50%を超えることとなった時点でのグループのいずれかに属している。
  2. その役員本人が属する株主グループの所有割合が10%を超えている
  3. その役員本人(および配偶者など)の所有割合が5%を超えている

【なぜこのルールがあるの?】 このルールは、強い支配力を持つオーナー一族が、「役員報酬(厳しい制限あり)」と「使用人給与(柔軟)」を使い分けて、会社の利益を不当に操作(ダブルディップ)することを防ぐために設けられています。

条件を確認したところで、次は「兼務役員になると何が得なのか?」という実務上のメリットに迫ります。

普通の役員と何が違う?3つの決定的メリット

使用人兼務役員として認められると、税金(損金)の計算や社会保険の面で、普通の役員にはない大きな利点があります。

項目普通の役員使用人兼務役員
賞与(ボーナス)原則、損金不算入(経費にできない)※事前届出がない場合使用人部分は従業員と同じタイミングで損金算入(経費にできる)
給与の変動原則、定期同額(1年間変えられない)役員部分は定額だが、使用人部分は残業代や昇給が柔軟に認められる
雇用保険原則、加入できない使用人としての給与が勝っていれば加入できる

特筆すべきは「賞与」です。通常の役員賞与は、事前に税務署へ金額を届けておかないと経費(損金)にできませんが、兼務役員なら「使用人分」については、他の従業員と同じ時期に支払えば会社の経費として認められます。これは非常に大きな節税効果を生みます。

賞与については、賃金規定等に基づき、他の使用人と同様の基準で算出されていることも重要です。また、一般従業員の賞与は決算で未払計上が認められる場合がありますが、兼務役員の使用人分賞与は「期末までの実際の支払」が原則として必要です。

また、雇用保険についてですが、原則として経営陣は雇用保険の対象外ですが、使用人兼務役員は「労働者性」が認められれば加入が可能です。万が一の倒産や解散、あるいはやむを得ない退職の際、失業手当を受け取れる安心感は、リスクを背負う使用人兼務役員にとって最大のセーフティネットとなります。ハローワークで雇用保険加入を認定させるために必要な「就業規則」や「出勤簿(タイムカード)」、「賃金台帳」といった証跡はそのまま、税務調査における「使用人としての実態」を証明する書類になります。

実務のコツ:給与と賞与の「分け方」と注意点

兼務役員の給与は、以下の2つを合算して計算します。

支給総額 = [役員報酬部分(固定)] + [使用人給与部分(変動可)]

「適正な使用人給与」の考え方

「賞与をたくさん経費にしたいから、使用人分を高くしよう!」といった勝手な設定はできません。使用人部分の金額は、以下の基準を参考に「妥当な金額」にする必要があります。使用人給与部分は、他の従業員の給与体系(就業規則等)に基づき、客観的に見て適正な金額である必要があります。他の従業員と比べて突出して高い場合、その超過部分は「役員報酬」とみなされ、定期同額ルール違反として損金算入を拒否される恐れがあります。

  • 社内の基準: 類似の職務に従事する他の従業員の給与水準。
  • 社外の基準: 同業種・同規模の他社の従業員給与(自社に従業員がいない場合など)。

この金額が不当に高いと、税務調査で「役員報酬の隠れ蓑だ」とみなされ、損金として認められない(否認される)リスクがあります。

証拠を残す「ひと工夫」

税務調査官は、兼務役員の報酬が「利益調整の道具」になっていないかを厳しく見ます。税務署に対し「正しく分けています」と証明するために、以下の準備を忘れずに行いましょう。

  • 株主総会議事録に、報酬と給与の内訳(例:役員分月30万、部長分月20万)を明記しておく。

【議事録への記載例】
「取締役 〇〇 〇〇に対する報酬は、役員報酬として月額300,000円、使用人としての職務(営業部長職)に対する給与として月額200,000円とすることを決定した。」

  • 雇用契約書や労働条件通知書を作成し、使用人としての具体的な仕事内容や給与体系を定めておく。
  • タイムカード、出勤簿、休暇届が一般従業員と同様に整備する
  • 業務日報等で、現場実務への「常時従事」を証明できるかチェック

勘定科目は分けた方がいいのか?

勘定科目について員報酬と従業員給与とで、部分的に分けた方がいいのでしょうか。分けずに従業員給与としている会社もあるでしょうが、勘定科目は明確に分けることが推奨されているようです。

税務上の取り扱いやルールが「役員報酬部分」と「使用人給与部分」で全く異なるため、会計帳簿上で混ざっていると、税務調査の際に「全額が役員報酬(定期同額給与)であり、変動した部分は損金として認められない」と指摘されるリスクが高まるからです。

使用人兼務役員の給与は、税務上「2階建て構造」になっています。役員としての報酬は「定期同額給与」でなければならず、変動させると損金不算入(経費として認められない)となります。一方、使用人としての給与は、残業代や欠勤控除などで毎月変動させることが可能です。これらを一つの「役員報酬」という勘定科目でまとめて処理してしまうと、税務署から「定期同額給与のルールを守っていない役員報酬」と見なされ、変動部分や増額部分が経費として否認される恐れがあります。

固定部分(役員分)は勘定科目を「役員報酬」とし、定期同額給与として毎月同額を計上します。変動部分(使用人分)は勘定科目を「給料手当」または「兼務役員給与」などとし、使用人分給与(基本給+残業代-欠勤控除など)として計上します。過去の判例(税務訴訟)においても、会社側が「役員報酬」勘定と「賃金(給与)」勘定を明確に区分して経理処理していたことが、事実認定の前提として記録されています。

給与明細(支給明細書)においても、役員報酬として〇〇円、使用人分給与として〇〇円(※ここが労働時間等により変動する)というように内訳を明記することで、「どの部分が固定で、どの部分が使用人としての対価(変動給)なのか」を客観的に証明できるようにしておくことが重要です。

まとめ:理解を深める3つのエッセンス

使用人兼務役員という制度をマスターするためのポイントは、以下の3つです。

  1. 「実態」が最優先: 肩書きだけでなく、実際に現場で他の従業員と同じように働いていることが不可欠。
  2. オーナー一族の制限: 「50/10/5」のルールにより、支配力が強すぎる人は従業員扱いされない。
  3. 損金(経費)の柔軟性: 使用人分の賞与や残業代を損金にできるため、会社と役員本人の双方に税務上のメリットがある。

この制度は、頑張る役員を支える心強い仕組みですが、判定を一歩間違えると多額の追徴課税を招く恐れもあります。

「自分の会社でこの割合は大丈夫かな?」と少しでも不安に感じたら、税理士にぜひ相談してください。しっかりとした「証拠」を一緒に作っていくことが、会社を守る最善の策になります。

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