【有限会社・合同会社は注意】役員賞与を経費にする唯一の方法と、実務の落とし穴「1円のズレで全額否認」

税務

導入:なぜ、あなたの会社の「役員賞与」は経費として認められないのか?

「決算が良くなりそうだから、役員にも賞与を出したい。しかし、法人税の負担は可能な限り抑えたい」——。経営者であれば当然の願いですが、ここには税務上の巨大な壁が立ちはだかっています。

最大の違いは、従業員と役員の賞与に対する「国の視線」です。従業員の賞与は、会社の利益状況に応じて柔軟に変動させることが認められています。しかし、役員賞与で同じ自由を認めれば、決算直前に利益を圧縮する「税逃れ(利益調整)」が横行しかねません。そのため、日本の税制は役員賞与を原則として経費(損金)に認めず、例外的に厳しい条件をクリアした「事前確定届出給与」のみを認めるという、極めて「敵視」に近い厳格な管理体制を敷いています。

本記事では、一歩間違えれば多額の追徴課税を招く、実務上の「急所」を解き明かします。

なお、本記事は制度の一般的な解説を目的としたものであり、個別の税務判断を行うものではありません。実際の申告や手続きにあたっては、必ず所轄の税務署や顧問税理士にご相談ください。

「1円、1日の齟齬も許されない」——税務署が求める、硬直的なまでの厳格性

事前確定届出給与の運用において、最も肝に銘じるべきは「形式基準」の異常なまでの厳しさです。

もし、届出書に「1,000,000円」と記載しながら、実際には「999,999円」しか支払わなかった、あるいは1円多く支払った場合、どうなるでしょうか。結論は無慈悲です。その役員に対する賞与の「全額」が損金不算入となります。

さらに恐ろしいのは、夏と冬など複数回に分けて支給を届け出ているケースです。例えば夏の支給は届出通り完璧に実行したとしても、冬の支給で1円、あるいは1日でもミスをすれば、「夏と冬の両方の合計額」が全額否認されるという連鎖的制裁が下されます。

なぜこれほどまでに厳しいのか。それは、この制度が単なる事務手続きではなく、「後出しの意思決定を排除する」ための法規的担保だからです。

「3つの期限、最も早い日」——カレンダーに刻むべき、提出期限の三重トラップ

事前確定届出給与の提出期限を「株主総会から1ヶ月」と思い込むのは、実務上、非常に危険です。届出期限は以下の3つのトリガーのうち、「いずれか最も早い日」がデッドラインとなります。

  1. 株主総会等の決議をした日から1ヶ月を経過する日
  2. 職務執行を開始する日から1ヶ月を経過する日
  3. 会計期間開始の日(期首)から4ヶ月を経過する日

特に注意すべきは「職務執行開始日」です。新規就任の役員や、定時総会前に実質的な職務を開始している場合、これが最短の期限となるリスクがあります。

3月決算の会社を例にシミュレーションしてみましょう。

  • 5月20日に定時株主総会を開催・決議
  • 同日から職務開始(再任含む) この場合、1と2の基準により「6月20日」が期限となります。3の基準(7月31日)よりも早いため、6月20日を1日でも過ぎれば、その年度の役員賞与を経費にする道は完全に閉ざされます。決算作業の忙しさで「うっかり失念」することは、数百万、数千万単位の経済的損失に直結するのです。

【要注意】有限会社や合同会社が「事前確定届出給与」を使う際の重大な落とし穴

役員賞与を経費(損金)にするための「事前確定届出給与」ですが、有限会社(特例有限会社) や 合同会社 が導入する場合には、株式会社とは異なる構造的なリスクがあることをご存知でしょうか?

「株式会社と同じように総会を開いて決議すればいい」と安易に考えていると、「要件を満たしていない」として全額否認(経費にならない)される恐れがあります。

ここでは、有限会社・合同会社特有のリスクの正体と、2025年(令和7年)2月に国税局から公表された最新の解決策について解説します。

なぜ「有限会社」だとリスクがあるのか?

事前確定届出給与を税務署に届け出る際、重要な基準日となるのが「職務の執行の開始の日」です。 届出書は、原則としてこの開始日から1ヶ月以内に提出しなければなりません。

通常の株式会社の場合 取締役には法律上の「任期(通常2年など)」があります。そのため、定時株主総会で「再任」の手続きが行われ、その総会日が明確に「(新しい任期の)職務執行の開始日」となります。

有限会社(特例有限会社)の場合 法律上、取締役に任期がありません。一度選任されると、辞任や解任がない限り、何十年でも取締役のままです。

税務上の問題点

任期がないということは、「再任」というイベントが発生しません。 そのため、毎年定時株主総会を開いて賞与を決議したとしても、税務署からは以下のように指摘されるリスクがあります。

「再任されていないので、職務執行の開始日は数年前(または数十年前)の就任日である」 「したがって、届出期限(開始日から1ヶ月以内)をとうに過ぎており、不適法な届出である」

このように判断されると、賞与全額が損金不算入(税金がかかる)という最悪の結果を招きます。

解決策:定款で「あえて任期を作る」

このリスクを回避するための確実な方法は、定款を変更し、取締役の任期を定めること(例:1年)です。

本来、有限会社に任期は不要ですが、定款であえて「任期は1年」と定めます。 すると、毎年「任期満了→再任」という法的なプロセスが発生し、定時株主総会の日が明確に「新しい職務執行期間の開始日」となります。

これにより、堂々と「総会の日から1ヶ月以内」に届出を行うことができるようになります。ただし、登記の問題もあるかもしれないので、その点は、税理士や司法書士に相談してください。

【最新事例】合同会社のケースから見る「任期設定」の有効性

「法律で任期がない会社でも、定款で自分たちでルールを決めれば税務署は認めてくれるのか?」という疑問に対し、非常に重要な回答事例が2025年(令和7年)2月に東京国税局から公表されました。

対象となったのは、有限会社と同じく法律上の任期がない「合同会社」です。

東京国税局の文書回答事例(令和7年2月公表)

ある合同会社が、以下のスキームについて税務署に事前照会を行いました。

定款で業務執行社員の任期を定める(10年など)。

毎年の「定時社員総会」で、翌1年間の賞与の支給日・支給額を決定する。

その総会の日を「職務執行の開始の日」として扱い、そこから1ヶ月以内に届け出る。

これに対し、東京国税局は「その手続きであれば、損金算入して差し支えない(届出期限は総会の日から1ヶ月以内でOK)」という回答を示しました。

有限会社への適用

この事例は、法律上の任期がない会社形態であっても、「定款で任期を定め、毎年の総会で決定・再任する形を整えれば、株式会社と同様に扱われる」ことを裏付けています。

有限会社においても、この事例にならい、しっかりと「定款変更(任期の設定)」を行ってから事前確定届出給与を導入することが、税務リスクを最小限に抑える必須の対策と言えるでしょう。

社会保険料削減の「甘い罠」——将来の年金と退職金を破壊する副作用

月額給与(定期同額給与)を極端に低く抑え、その分を事前確定届出給与(賞与)に集約させることで、社会保険料の負担を軽減する「節税スキーム」が存在します。しかし、これは専門家の視点から見れば、長期的リスクを孕んだ「諸刃の剣」です。スガワラくんなどが勧めていて、税理士界隈でプチ炎上していたような・・・。

第一の副作用は、将来の老齢厚生年金の受給額が減少するトレードオフです。そしてより致命的なのが、将来の「役員退職金」への悪影響です。税務上、適正とされる退職金の損金算入限度額は、一般的に以下の算式で計算されます(あくまで一般的な話であり、例外はあり得ます)。

退職金適正額 = 最終報酬月額 × 勤続年数 × 功績倍率

ここでのポイントは、計算の基礎が「最終報酬月額(月給)」であり、賞与は原則として含まれないという事実です。 例えば、社会保険料を削るために月給を10万円に下げ、賞与を400万円に設定したとします。この場合、将来数千万円単位の退職金を支払おうとしても、計算の基礎となる月給が低すぎるため、損金として認められる枠が大幅に削られてしまいます。目先の数十万円の節税のために、将来の膨大な損金枠を自ら破壊していることに他なりません。

この節税スキームは違法ではない(モラルには反している気がしますが)ですが、難色を示す税理士が多いとは思います。攻めたスタンスの税理士なら受け入れてくれるでしょう。知り合いの税理士も、自分から勧めることはないが、顧問先にお願いされたら現状の制度化においては受け入れていると言っていました。ただ、何らかの規制が入り、そのうち封じられる可能性もあります。社労士の先生方は、この節税スキームを嫌っている人が多い印象です。

「銀行休業日」という伏兵——届出書に必ず入れるべき、守りの一文

実務上の盲点は「カレンダー」に潜んでいます。 届出書に記載した支給日が土日祝日だった場合、振込処理が翌営業日にずれるだけで、税務署は「届出日と支払日の不一致」を突きつけてきます。

この事務的不手際による全額否認を回避する鉄則は、株主総会議事録、そして何より税務署への「届出書」そのものに、以下の前倒し規定を明記しておくことです。

「なお、支給日が金融機関の休業日にあたる場合は、その前営業日に支給するものとする」

単に社内の議事録にあるだけでは、税務署との「事前確定」の合意としては不十分とみなされるリスクがあります。届出書と議事録を完全に一致させ、休日という外部変数まで見越して「事前」に確定させておくこと。これこそが、ガバナンスの核心です。

ただし、「別に金融機関の休業日などの関係で、多少が日がずれていても問題はない」という税理士もいるし、とある会社の役員の方に話を伺ったところ、「この点は全然意識していなかったし、税務調査でも何も指摘されなかった」とおっしゃっていました。でも一応、上述の謳い文句を明記しておいた方がいいでしょうね。

【実践編】事前確定届出給与の「届出書」書き方完全ガイド&「議事録」ひな形

前項では制度のリスクについて解説しましたが、ここからは実務的な「書類の書き方」と「議事録の残し方」について書いてみます。

事前確定届出給与は、「1円・1日のズレ」も許されない非常に厳格な制度です。 「書類の書き間違い」や「カレンダーの確認不足」だけで、数百万円の経費が否認(税金がかかる)される恐れがあります。

以下のポイントを確実に押さえて、完璧な届出を行いましょう。

「株主総会議事録」の作成(ひな形あり)

まずは株主総会を開催し、支給内容を具体的(いつ・誰に・いくら)に決議します。 税務調査では、この議事録と「実際の振込日・金額」が照合されます。

議事録作成の重要ポイント

・日付の指定:「12月支給」といった曖昧な表現はNGです。「12月25日」のように特定の日付を決議します。

・銀行営業日の確認:その日が土日祝日でないか必ずカレンダーで確認してください。もし休日の場合は、実際に振り込む日(前倒しなら前営業日)を記載します。

定時株主総会議事録(記載例)

第〇号議案 役員報酬支給の件

議長は、当期の役員に対する報酬について、以下の通りとしたい旨を述べ、その理由を説明したところ、満場異議なくこれを承認可決した。

定期同額給与(毎月の報酬)

前期と同額にて継続して支給するものとする。  

・代表取締役 〇〇 〇〇:月額 〇〇万円   

・取締役 〇〇 〇〇:月額 〇〇万円

事前確定届出給与(賞与)

法人税法第34条第1項第2号の規定に基づき、所轄税務署長に届出を行うことを条件として、以下の通り支給する。  

・支給対象者: 代表取締役 〇〇 〇〇   

・支給時期: 令和〇年〇〇月〇〇日   

・支給金額: 金 3,000,000 円(源泉所得税及び社会保険料控除前の総額)

※支給時期が金融機関の休業日にあたる場合は、その直前の営業日に支給する。

「届出書(本紙)」の書き方

税務署へ提出する表紙部分です。国税庁のサイトからダウンロードできます。

C1-23 事前確定届出給与に関する届出|国税庁

・提出期限:以下の早い方の日付を書きます。   

株主総会決議日から1ヶ月以内   2. 会計期間開始日(期首)から4ヶ月以内  

 ※通常は「総会から1ヶ月以内」になるケースが多いです。

・職務の執行を開始する日:原則として「定時株主総会の開催日」を記入します。

「付表1(詳細)」の書き方【最重要】

対象者ごとに「いつ、いくら払うか」を書く別紙です。ここが審査の肝となります。

① ヘッダー部分(職務執行期間)

・職務の執行の開始の日:今回の定時株主総会の日付

・(職務執行期間):( 今回の総会日 〜 次回の定時株主総会開催予定日 )  

 ※原則として1年間の期間を記入します。有限会社等で任期がない場合でも、1年単位で区切って記載するのが実務上のセオリーです。

② 左側:事前確定届出給与(ボーナス)

ここには「今回の届出額」の欄に記入します。

・支給時期:令和〇年〇〇月〇〇日 (注意:必ず「カレンダーで銀行が動く日」を書くこと。土日の場合は、実際に振り込む日を書きます。)

・支給額:3,000,000 (注意:手取りではなく「額面(総額)」を書きます。)

※上の行にある「届出額」「支給額」は、前回の届出内容を書く欄なので、初めての場合は空欄でOKです。

③ 右側:事前確定届出給与以外の給与(月給)

ここには毎月の役員報酬(定期同額給与)の予定を書きます。

・支給時期:毎月の支給日(例:4.30、5.31…)

・支給額:毎月の月額報酬(例:500,000)

書き方のコツ 

・月給に関しては「4月30日(日)」のように休日であっても、原則的な支給日(末日など)を書いて問題ないと思われます。

・決算月をまたぐ場合:決算月(12月など)までは上段に書き、翌期(1月以降)分は下段の「翌会計期間以後」の欄に分けて書きます。

まとめ:提出前の最終チェックリスト

提出前に、以下の3点が「完全一致」しているか必ず確認してください。

「株主総会議事録」の日付・金額

「届出書(付表1)」の日付・金額

「実際のカレンダー(銀行営業日)」

特に「12月31日」など、年末は銀行休業日と重なりやすい時期です。 「議事録では25日だけど、土曜だから24日に振り込んだ」というケースでも、届出書に「25日」と書いてあると否認(アウト)される可能性もなきにしもあらずです。

実際に振り込む日を特定し、すべての書類をその日付で統一することが、最強の対策となります。

結論:透明性の高い経営が、最大の節税につながる

事前確定届出給与の運用は、単なる節税策ではなく、企業の統治能力を試す「ガバナンスそのもの」です。ミリ単位の正確性を維持し続けることは、外部からの信頼を勝ち取る透明な経営の証明でもあります。

最後に、実務上の最終防衛線をお伝えします。e-Taxで提出した際に出力される「受信通知」が、期限内に正当な手続きを完了したことを証明するの手段です。必ずPDFや書面で厳重に保管してください。

あなたの会社の届出書は、不測の事態(休業日や将来の退職金設計)まで見越した「完璧な設計」になっていますか?1円、1日のミスも許さないプロの視点で、今一度、その整合性を点検してください。

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