今回は建設業の経営審査において、無形固定資産と減価償却費ついて書いていきます。
無形固定資産の減価償却費についても要件を満たしていれば減価償却費として書類に記載し、場合によっては点数アップにつながることがあります。
経営事項審査の点数アップについては『「公共工事」受注の最強ガイド』という最高の本があり、経営事項審査を受ける会社の社長、経理担当者、はたまた税理士・行政書士も必読の1冊があり、私も繰り返し読んでいます。
内容も非常に充実かつ実用的で、さらにわかりやすい。経営審査を受けるにあたって目から鱗の情報・ノウハウが惜しみなく載っています。
経営事項審査と減価償却費
減価償却費は、経営審査においてどのような影響を及ぼすか簡単に見てみます。
X2の平均利益額
X2には「自己資本額」と「平均利益額」があり、そのうちの平均利益額は減価償却費の額で加算される点数が左右されます。
平均利益額=営業利益+減価償却費
平均利益額が大きいほど加点となりますので、減価償却費の額は多い方がいいと言えます。
ちなみに自己資本額については決算単独年か、2年平均かどちらか有利な方を採用することができるので数値の大きい方を選びましょう。
X2の計算方法については以下の通りです。
X2=(自己資本額点数+平均利益額点数)÷ 2
自己資本額については経営状況分析結果通知書の「自己資本」欄、平均利益額については経営状況分析結果通知書の下部に「参考値」として当期及び前期の営業利益と減価償却実施額が記載されているのでこちらを基にしてください。
経営事項審査では経営状況分析結果通知書の数字と突合してチェックされることが多いです。
Y点の営業キャッシュフロー
経営状況分析(Y点)においても減価償却費は影響を及ぼします。「営業キャッシュフロー」が高い方が有利ですが、この営業キャッシュフローの計算で減価償却費の数字が大きい方がキャッシュフローも高くなります。
こちらについてはY点への貢献度は少なく、売上規模が一定額(10億円)以上の会社でなければそこまで気にする必要はないと思われます。
Y点の自己資本対固定資産比率
経営状況分析(Y点)の「自己資本対固定資産比率」では、反対に、固定資産が多いと点数が下がってしまう傾向にあります。
自己資本対固定資産比率=(自己資本/固定資産)× 100
固定資産などが他人資本(借入金など)ではなく、自分の資金で賄えているかどうかを見る指標で、数字が高い方がいいですが、固定資産が多くなると数字が低くなってしまいます。減価償却費が多いということは一般的にみて、固定資産が多いということに繋がります。
重機は保有しているとW点加点対象になりますが、軽運送の車両などはGMSリースなどのサービスを利用して手配するのも良いかもしれません。
また、不要な(あるいは減価償却が終了した)重機は売却してキャッシュを増やし、純利益の増加へつなげることも重要です。
「自己資本対固定資産比率」ついても「営業キャッシュフロー」と同じくY点への貢献度はそこまで高くないため気にしすぎなくて大丈夫です。
減価償却費はできるだけ多く計上した方がいい
X2及び営業キャッシュフローでは減価償却費は多く計上した方が良く、自己資本対固定資産比率の判定では固定資産(減価償却資産)が少ない方がいいということになりますが、結局決算書に記載の数字を基に申請書類を作成するわけなので、減価償却費は決算書に書いてあるものを全部経営状況分析の際に申請した方が良いのは間違いありません。
また、自己資本の数字が下がってしまうことを危惧(赤字にしたくない)して減価償却を行わないという選択をとっている会社もありますが、あらゆることを勘案すると、個人的には減価償却は適正に毎期継続して行うべきだと思っています。
一括償却資産の減価償却費についても実施額に含めることができますので忘れずに計上し、別表16も分析機関に送りましょう。
というか別表16は減価償却実施額に記載したもの以外も分析機関に送っても問題ないので、別表16は全部送りましょう。
入会金等の償却費は減価償却費実施額に入るのか
税法の繰延資産について別表16には記載アリだが・・・?
固定資産の減価償却が行われているかどうかは、法人税申告書の別表16を基に判断されます。経営状況分析機関に別表16を送って決算書に記載の減価償却費の数字と合っているか見てもらうことになりますが、別表16には繰延資産として計上された入会金等(税法上の繰延資産)の償却費が記載されていることがあります。この場合の入会金等とは「長期前払費用」「差入れ保証金」などの勘定科目として資産計上したゴルフクラブの入会金、レジャー施設の入会金、同業者団体の入会金で、多くの場合5年で償却されるものになります。
税法上の繰延資産とは・・・支払いの効果が1年以上にわたるもので、以下の要件を満たすものです。
①自己が便益を受ける公共的施設又は共同的施設の設置又は改良のために支出する費用
②資産を賃借し又は使用するために支出する権利金、立ちのき料その他の費用
③役務の提供を受けるために支出する権利金その他の費用
④製品等の広告宣伝の用に供する資産を贈与したことにより生ずる費用
⑤①~④までに掲げる費用のほか、自己が便益を受けるために支出する費用
対して、
会計上の繰延資産とは・・・「創業費・開業費・開発費・株式交付費・社債発行費」の5つをいい、こちらも償却費を計上することができます。こちらは減価償却の実施額にはなり得ません。
私はこの税法上の繰延資産である入会金等は償却されて別表16にも記載されているため、経営分析の際に減価償却費として「ワンチャン申請できるんじゃね?」とか思ってしまいました。そこで経営分析機関で電話で問い合わせてみました。
返答は「減価償却費として決算書に載っていて、別表16に記載されていれば、できます。」というものでした。別表16に記載されてれば、ということを担当の人が強調されていたため、マジでできるのかな?とさらに思い調べてみました。
別表16あれば記載してええで
入会金等の償却費は経営状況分析の減価償却には該当しない
結論は入会金等の償却費は減価償却実施額には該当しないというものです。まあ、当たり前のような気もしますが笑。
経営状況分析の税法上の繰延資産の当期減価償却実施額に記載するものは次の全ての項目を満たす必要があります。
①決算書に無形固定資産として登録されている
②減価償却費として費用計上されている
③別表16にて減価償却実施を確認できる
まず、入会金等は無形固定資産として計上するものではなく、「投資その他の資産」の区分に分類されるためアウトです。また減価償却費としても費用計上されず、営業外費用の繰延資産償却として費用計上されることが多いため、この点でもアウトです。
つまり、入会金等の償却費は減価償却実施額に含めることができないということになります。
ただ、(株)建設業経営情報分析センターの「申請時に多い修正」の「減価償却実施額」のページを見ると「減価償却実施額は、財務諸表からは算出できません。固定資産減価償却内訳書あるいは税務申告書別表16(1)(2)等の合計金額から算出します。」とあるため、別表16に載っていれさえいれば通ってしまうのは?と考えてしまう自分がいます。
あと、税法上の繰延資産で、財務諸表において無形固定資産として計上するものって何なんだろう。権利金とか特許権とか?ソフトウェアは普通に固定資産だしな。
まとめ
以上、経営審査における減価償却と、入会金等についての償却費について書いてみました。
結論としては
①減価償却は実施して、実施額は経営審査の書類にもれなく記入した方が良い
②税法上の繰延資産である入会金等の償却費は経営状況分析の償却実施額に含めることはできない。
ということになります。また、福利厚生も大事ですが、レジャー施設などの入会金等への出費は以上のことから必要以上に行わない方が良いとも言えます。
コロナも一通り落ち着いて、建設業という業界にも新しい良い風が吹いてくれることを願いますが、人手不足、原材料などの高騰が原因でまだまだ厳しい会社もあると思います。「WEB工務店」というWebサービスがあり、「人材が足りない、職人が余っている、人脈を広げたい・・・」など建設業特有のニーズに応えてくれるビジネスマッチングサービスです。
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