株式会社の役員登記は忘れがちな重要な法的手続きです。多くの中小企業では役員任期を最長の10年に設定していますが、その長さゆえに任期満了時の重任登記を忘れてしまい、思わぬペナルティを受けるケースが少なくありません。今回は役員の任期と重任登記の必要性、そして登記懈怠(けたい)によるリスクについて解説します。
役員の任期について
株式会社の役員には、原則として任期が定められています。取締役は通常2年、監査役は4年の任期を持ちます。ただし、非公開会社においては定款の変更を行うことで、役員の任期を最長10年に延長することが可能です。中小企業の多くは、この最長の10年に設定していることが多いでしょう。
有限会社の役員には任期がないため、特に登記の更新を気にする必要はありません。
重任登記の必要性
役員の任期が10年に設定されている場合でも、任期を迎えた際には定時株主総会で役員を再選任する必要があります。この手続きには、役員の重任登記(役員変更登記)が必要であり、任期満了後は2週間以内に登記申請を行わなければなりません。
2年ごとに重任登記を行うより、10年に1回の登記の方が事務的な負担も少なく手間がかからないため、多くの会社が10年に設定しているのです。
重任登記を忘れるリスク
10年という長期間のため、登記を忘れてしまうケースが多々あります。特に会社設立から10年経過した最初の重任登記は忘れがちです。忘れたまま放置していると罰金が科せられるため、気付いた時点で速やかに司法書士に相談しましょう。
登記懈怠(けたい)のペナルティ
役員の重任登記を怠った場合、代表取締役個人に対して、最大100万円以下の過料が科される可能性があります。実際には会社の規模や経過年数、悪質性の度合いによって金額は異なりますが、数万円の過料が一般的です。
また、登記を長期間放置すると、最終の登記から12年が経過した場合には、法務局が会社を解散したとみなす「みなし解散」の手続きが取られることがあります。
私の知り合いの会社は、役員重任登記を忘れて放置していたら、「忘れてませんか?」という旨の通知書が送られてきたそうです。最終登記から12年以上経過した株式会社および5年以上経過した一般法人に送っているとその通知書に書いてありましたが、この時に初めて気付く役員の方も少なくないかもしれません。
100万円というのは流石にあまりないと思いますが、普通に数万円は過料を取られます。私も「初めてだったら、意外と多めに見てくれるんじゃないかな」という何の根拠もない希望的観測を抱いていたことがありました。しかし、罰金を払わせられたという人があまりにも多く、かなり厳しいものなのだと今では強く思います。
個人的な経験として、2年放置していた役員は2万円、8年放置していた役員は8万円を支払ったという事例があります。ということは、年数に比例して1年につき約1万円という計算になるのかな?という推測も出来ますが、過料の金額は督促状が来るまでわかりません。

会社法違反として、このような過料決定の通知書が送られてきます。上記の書類は、5年間の懈怠で5万円の過料が課されたパターンだそうです。仰々しく書かれていてちょっとびっくりしますよね。ただ、過料は行政罰であり、前科はつきません。

こちらは、納入告知書です。
重任登記忘れを防ぐ方法
毎期決算の度に、あと何年で登記をしなければならないか、毎年意識するようにしましょう。
任期終了日をカレンダーや予定表に記録しましょう。システム登録して、自動でリマインダーから案内が来るように設定するのもおすすめです。
司法書士・税理士にリマインドしてもらうのも良いでしょう。登記の作業は司法書士が行いますが、何年かに1回しか司法書士に会わない人もいますし、全く司法書士の知り合いがいない、というケースもあるでしょうから、年に1回は必ず会う税理士と一緒に、決算申告の際にあと何年かを確認すると良いでしょう。
まとめ
✅ 重任登記を忘れないための対策
登記忘れは「うっかり」が原因で起きやすいため、次のような対策を講じておくと安心です。
📅 任期終了日をカレンダーや予定表に記録
毎年の決算処理とセットで確認するのが理想的です。
🧾 司法書士・税理士にリマインドを依頼
信頼できる専門家に登記の期限管理もサポートしてもらいましょう。
🗂️ 定款の「役員の任期」を再確認
「10年任期」など長期の場合でも、覚えておかないと忘れがちです。
役員の重任登記は、任期満了後2週間以内に行うべき重要な法的手続きです。懈怠すると最大100万円の過料が科される可能性があり、実際に年数に応じて数万円の罰金が課されるケースが多いことがわかりました。また、長期間の放置は「みなし解散」につながる恐れもあります。重任登記忘れを防ぐためには、決算時に任期を確認する習慣をつけ、司法書士や税理士といった専門家にリマインドを依頼するなど、計画的な対応を心がけましょう。登記は会社運営の基本であり、適切な管理が会社を守るための重要な一歩となります。
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