会計事務所の実務でAIを日々使い倒している筆者が、各ツールの「正直なところ」をレポートします。
Gemini Pro(課金)・NotebookLM・Claude(無料版)・ChatGPTをひと通り試してきた結果、それぞれにはっきりとした得意・不得意があることがわかってきました。特に最近Claudeの実力に驚いたので、その話を中心にまとめます。
大前提:コンプライアンスを守った使い方を
AIツールに会計データを読み込ませる際は、個人情報・法人名などの実データを絶対にアップロードしないことが鉄則です。
ダミーデータや、個人情報を伏せたCSVファイルを使って作業するようにしています。これは「心がけ」ではなく、やらなければいけないことです。社内規定を必ず確認した上で活用してください。
NotebookLM:マニュアル読解は神、でも数字は苦手
得意なこと:会計ソフトのマニュアル読解
NotebookLMが最も力を発揮するのは、大量のPDFマニュアルを読み込ませて質問する使い方です。
TKCのような会計ソフトには、誰が読むんだというレベルの分厚いマニュアルがあります。給与計算のマニュアル、販売管理のマニュアル、仕訳読み込みのマニュアル……これを片っ端から読み込ませて「こういう操作はどうやるの?」と聞くと、素早く的確に教えてくれます。
実際にこんな経験がありました。TKCのヘルプデスクに問い合わせの電話をして、折り返しを待っている間にNotebookLMに同じ質問をしたところ、ヘルプデスクの折り返しよりはるかに早く回答が返ってきて、問題が解決しました。そして後からかかってきたヘルプデスクの回答が、NotebookLMとまったく同じ内容だった……という経験です。
「TKCのヘルプデスクいらないじゃないか」と思ったくらいです(笑)。ショートカットキーを調べたいときや、操作方法でわからないことが出てきたとき、NotebookLMはかなり使えます。
苦手なこと①:数値データの読み取り
一方で、仕訳データや試算表などの数値ファイルを読み込ませると、途端に精度が落ちます。
CSVで仕訳データをアップロードして「異常値を検出して」「二重計上がないか確認して」と依頼しても、まったく的外れな回答が返ってきます。「○○がゼロになっています」と言われても全然ゼロになっていないし、「租税公課の課税区分が課税仕入れになっています」と言われても、なっていないんですよね。
列・行の読み取りが苦手なのか、Excelはそもそも読み込めないのでCSVにしているのですが、それでも数値の正確な読み取りは難しいようです。
合計残高試算表を読み込ませても、「残高」を教えてほしいのに「借方」や「貸方」の数字だけを引っ張ってきたりと、なかなか思い通りにはなりません。
苦手なこと②:ハルシネーション問題
「NotebookLMはアップロードした資料からしか回答しない」と言われていますが、実際にはそうでもないことがあります。
消費税の簡易課税・事業区分に関する質問をした際のことです。「相手先がガス屋さんで、そのガス屋さんが仕入れたガスを個人的に消費する場合、第1種事業ではなく第2種事業に該当するのでは?」という疑問をぶつけたところ、NotebookLMは「そうです。事業者が個人的に消費する場合は第2種事業です」と回答してきました。
税理士試験の消費税法を合格した身として「そうだっけ?」と思いながら、念のため国税庁のタックスアンサーを確認したところ、まったく逆のことが書いてありました。「相手先が事業者であれば、その使用目的にかかわらず第1種事業に該当する」というのが正しい取り扱いです。
NotebookLMはアップロードしていない国税庁のホームページを根拠として示してきましたが、そのページはソースに含まれていない。つまり、資料から推測して誤った回答をしてしまったわけです。
税務判断をNotebookLMだけに頼るのは危険です。特に税法の解釈が絡む質問は、必ず一次情報(法令、国税庁タックスアンサーなど)で確認するようにしましょう。
Gemini:文字起こしとデータ変換はこちらが上
Geminiはクレジットカードの明細を写真で撮って文字起こしさせたり、勘定科目別にソートさせたりといった作業が得意です。スプレッドシートへの変換もできるので、実務での活用場面は多い印象です。
ただしGeminiも、ファイルの読み込みで不具合が起きることがあります。iPhoneのボイスメモをアップロードしようとすると「ファイルを読み込めません」というエラーが頻繁に出るのが難点です。
Claude:数値処理の精度が別格だった
今回一番驚いたのがClaudeです。
NotebookLMで全然うまくいかなかった仕訳データの異常値検出をClaudeに試みたところ、精度がまったく違いました。
- 二重計上している仕訳を正確に指摘してくれる
- 同じ取引なのにいつもと違う勘定科目になっているものを検出してくれる
- 消費税の課税区分(課税仕入れ・非課税・軽減税率など)の誤りを拾ってくれる
しかも、「こちらが何を確認したいか」を正確に読み取った上で回答してくれる感覚があります。内部でテキストデータを自動変換して読み取りやすい形にしているようで、NotebookLMが「文字化けして読み取れません」と言って止まるところを、Claudeはちゃんと処理してくれました。
日本語の文章作成も自然で、WordファイルやExcelファイルをきちんとDLできる形式で出力してくれる点も評価できます(GeminiはGoogleのスプレッドシートかWordへのコピーを促してくるだけで、ファイルとして出力しにくい)。
Claude Code(コワーク含む)については、会計Xのタイムラインでもフォルダ整理・メール送信・業務効率化のツールとして話題になっています。筆者はまだ本格活用には至っていませんが、そちらの可能性も注目しています。
現在は無料版を使っていますが、制限に引っかかる場面も出てきたので、課金を検討中です(お金ないけど)。
会議の議事録:Apple Watch + NotebookLM の組み合わせ
最後に、地味に便利な運用を紹介します。
会議や打ち合わせの議事録作成は、Apple Watchのボイスメモで録音 → iPhoneに自動同期 → NotebookLMにアップロードという流れで行っています。
なお、スマホの裏に貼り付けて使うAI録音デバイス「Plaud AI」も気になっています。月額約1,000円のクラウドサービスとセットで使うタイプで、文字起こしや要約に特化したガジェットです。知人が使っているのを見て興味を持ちましたが、今のところApple Watchで事足りているので、そのうち導入するかもしれません。
Apple Watchはホームボタンにボイスメモのショートカットを設定しておけば、サイドボタンを数回押すだけで録音が開始できます。画面にはマイクのマークが小さく表示されるだけなので、目立ちません(もちろん、録音する際は相手の了承を得ることが原則です)。
NotebookLMは音声ファイルの読み込みが安定しており、「今日の会議で決まったこと」「宿題事項は何か」を手軽に確認できます。これはかなり実用的です。
まとめ:ツールの使い分けが鍵
| ツール | 得意なこと | 苦手なこと |
|---|---|---|
| NotebookLM | マニュアル読解・議事録文字起こし | 数値データの処理・ハルシネーション |
| Gemini | 文字起こし・クレジットカード明細のデータ化 | ファイル読み込みの安定性 |
| Claude | 仕訳の異常値検出・日本語文章作成・ファイル出力 | (今のところ大きな弱点は感じていない) |
| ChatGPT | メール文章作成など汎用的な用途 | 特化した会計業務への活用はあまりしていない |
各ツールを使い分けることが、会計実務のAI活用においては現実的な答えだと感じています。「AIを導入したから業務効率化できた」と単純に言い切れるほど簡単ではありませんが、使い方を工夫することで確実に役立てられる場面はあります。
引き続き試行錯誤しながら、また実務レポートを更新していきます。
【重要】生データをAIに投げることの法的リスク
便利さばかりを語ってきましたが、最後に非常に重要なリスクについて触れておきます。
税理士・公認会計士の濱田康宏先生がClaudeに確認したところ、「生の会計データをAIに投げることは相当ヤバい」という趣旨の回答が返ってきたとのことで、その内容が非常に示唆に富んでいます(参照:大阪勉強会からの税法実務情報)。
リスクの二層構造
第一層:送った時点でのリスク
仕訳データの中に制裁対象国との取引記録が含まれていた場合、それを米国企業(Anthropic)のサーバーに送ること自体が、米国の輸出規制・経済制裁法(OFACなど)に抵触する可能性があります。製造業や海外取引のある会社のデータを扱う場合は特に注意が必要です。
第二層:後から発覚するリスク
「当時は問題なかったが、後から取引先が問題のある関係者だったと判明する」というパターンです。仕訳データの中に将来問題視される取引先名が含まれていた場合、「Anthropicのサーバーにそのデータを送った」という事実が残り続けます。
Teamプランにすれば解決する?
結論から言うと、Teamプランではこれらのリスクはクリアできません。
Teamプランで担保されるのは「学習に使わない」「従業員がアクセスしない」という範囲に留まります。データが米国企業のサーバーに渡るという事実は変わらないため、法的リスクの観点では「送信した」という行為自体が問題になりえます。
Enterpriseプランになると、データの取り扱い契約(DPA)を個別に締結できるため、法的な責任の所在を明確にすることは可能です。ただしそれも「リスクをゼロにする」のではなく「契約上の責任を整理する」という意味合いです。
顧客の同意は取れているか
濱田先生の結論は「生データをAIに投げるのは、顧客の同意を得ていないと相当まずい」というものでした。
会計事務所が扱うのは、あくまで顧客の機密情報です。その情報を外部のクラウドサービスに送信することについて、顧客から明示的な同意を得ているかどうか——現状、そこまで考えて運用している事務所はまだ少ないのではないでしょうか。
筆者自身もダミーデータや個人情報を伏せたデータでの運用を心がけていますが、改めてこのリスクを認識した上で、慎重に活用していく必要があると感じています。AIは便利なツールである一方、会計・税務の世界では「便利さ」だけで突き進むわけにはいかない側面もある、ということは念頭に置いておきたいところです。
一方で、現実的な視点も
ただ、こうしたリスクに対して「じゃあAIを使わなければいい」と言い切れるかというと、そう単純でもないという声もあります。
今のAIブーム以前から、データの置き場をローカル環境以外のクラウドに依存している事務所の方がむしろ多数派ではないでしょうか。行政ですらAWSを利用している時代です。上場企業であれば相応のリスク管理が求められますが、零細企業レベルでその流れに抗い続けるのは、現実的にはもう難しい段階に来ているのかもしれません。
とはいえ、「クラウドを使うこと自体のリスクを認識した上で、どう管理するか」を考える時代が来たということは確かです。「なんとなく便利だから使っている」のと「リスクを理解した上で使っている」のとでは、いざという時の対応が大きく変わります。AIの活用も同じで、まずリスクを知ることが第一歩だと思っています。
この記事は実際の業務経験をもとに書いたものです。AI活用にあたっては、各事務所の規定やコンプライアンスを必ず確認の上、ご自身の責任でご活用ください。

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