地方の会計事務所で働いていると、毎年11月から1月にかけて顧問先の年末調整をお手伝いすることになります。そこで毎年のように感じるのが、「社員が多い会社ほど、年末調整が詰まる」ということです。
回収が遅れる、扶養の判定がバラバラ、「所得」欄に年収が書いてある、控除証明書が付いていない……。一つひとつは小さなミスでも、社員が50人、100人となると差し戻しだけで担当者の12月が溶けていきます。
しかも令和8年分は、基礎控除の引上げ・給与所得控除の最低保障額の引上げ・扶養親族の所得要件の改正が同時に入り、「扶養に入れられる年収」の基準がまた変わりました。この記事では、国税庁の「令和8年分 年末調整のしかた」をベースに、会社の担当者と従業員の両方が使えるように、フローチャートと早見表でまとめました。
令和8年分の年末調整で変わったポイント
令和8年度税制改正により、令和8年12月1日以後に行う年末調整から、次の改正が適用されます。11月までの毎月の源泉徴収は改正前の税額表のままなので、改正の効果は12月の年末調整でまとめて精算されることになります。
| 項目 | 改正前(令和7年分) | 改正後(令和8年分) |
|---|---|---|
| 給与所得控除の最低保障額 | 65万円 | 74万円 |
| 基礎控除(合計所得489万円以下の場合) | 最大95万円 | 104万円 |
| 扶養親族・同一生計配偶者の所得要件 | 所得58万円以下 (給与のみ年収123万円以下) | 所得62万円以下 (給与のみ年収136万円以下) |
| 特定親族(19〜22歳)の所得要件 | 所得58万円超123万円以下 (年収123万円超188万円以下) | 所得62万円超123万円以下 (年収136万円超197万円以下) |
| 配偶者特別控除の対象となる配偶者 | 年収123万円超201万5,999円以下 | 年収136万円超207万円以下 |
| 勤労学生の所得要件 | 所得85万円以下(年収150万円以下) | 所得89万円以下(年収163万円以下) |
| 一般生命保険料控除(23歳未満の扶養親族がいる場合) | 最高4万円 | 最高6万円 |
※ 出典:国税庁「令和8年分 年末調整のしかた」。基礎控除は合計所得金額に応じて段階的に減り、489万円超655万円以下は67万円、655万円超2,350万円以下は62万円です。
改正で新たに扶養親族になる家族がいる従業員(例:パートの配偶者や子の年収が123万円超136万円以下)は、扶養控除等(異動)申告書の追加記入が必要です。会社から「今年は基準が136万円に上がっています」と一言案内するだけで、控除漏れがかなり防げます。
年末調整が詰まる会社の共通点
毎年スムーズに終わる会社と、毎年1月までもつれる会社。差は担当者の能力よりも「仕組み」にあると感じています。詰まる会社には、だいたい次の共通点があります。
- 配付物が申告書だけ:記入例や早見表がないため、従業員が毎年ゼロから悩み、問い合わせが殺到する。
- 提出期限が12月上旬:最終給与の計算日から逆算すると、差し戻しの時間がほとんど残らない。
- チェック観点が担当者の頭の中にしかない:人によって確認の深さが違い、属人化している。
- 「年収」と「所得」の違いが社内で共有されていない:申告書のミスの大半はここから生まれます。
- 紙の回収・転記に時間を取られている:電子化の検討が後回しになっている。
逆にいえば、「配る資料」「スケジュール」「チェックリスト」の3つを整えるだけで、年末調整はかなり楽になります。
会社側の年末調整スケジュール(業務フロー)
社員数が多い会社ほど、逆算型のスケジュールを組むのがおすすめです。下は、12月の最終給与で精算する一般的なケースの流れです。
- 10月準備:改正内容の確認と配付資料づくり
国税庁の「年末調整のしかた」で改正点を確認。記入例・早見表・提出物チェック表を作成し、電子化する場合は方式(年調ソフト・給与システム連携など)を決めます。
- 11月上旬配付:申告書と案内をセットで渡す
提出期限は「最終給与計算日の3〜4週間前」が目安。差し戻しの期間を必ず確保します。
- 11月中旬〜下旬回収・一次チェック
チェックリストに沿って確認し、不備はまとめて差し戻し。生命保険料控除証明書などの添付漏れはこの段階で潰します。
- 12月年税額の計算・過不足の精算・源泉徴収票の交付
給与・賞与・社会保険料を集計し、年税額を計算。最終給与(または賞与)で還付・徴収します。源泉徴収票は最終給与の明細と一緒に交付するのがおすすめです(法定期限は翌年1月31日)。1月の作業が減り、従業員も早めに内容を確認できます。
- 翌年1月納付・支払報告書の提出
納期限は令和9年1月12日(納期の特例は1月20日)。給与支払報告書は1月31日までに市区町村へ提出します(令和9年は1月31日が日曜日のため、2月1日(月)まで)。12月に交付した源泉徴収票に誤りが見つかった場合は、訂正して再交付し、支払報告書の内容と一致させてください。
令和9年1月1日以後に提出する源泉徴収票(=令和8年分から)は、市区町村へ給与支払報告書を提出すれば、税務署へ源泉徴収票を提出したものとみなされる「みなし提出の特例」が始まります。従業員本人への源泉徴収票の交付はこれまでどおり必要です。詳しくは国税庁の「源泉徴収票のみなし提出の特例 特設ページ」をご覧ください。
まず押さえたい「年収」と「所得」の違い
年末調整の申告書で一番多いミスが、「所得」欄に年収を書いてしまうことです。年収(収入)と所得は別物で、申告書の多くの欄は「所得」で判定します。
税金・社会保険料を引く前の総額
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たとえばパート年収150万円の配偶者なら、所得は150万円−74万円=76万円です。なお、年収には非課税の通勤手当は含めず、その年の1月〜12月に支給日が来た給与で数えます(12月締め・1月払いの給与は翌年分)。
早見表① 給与の年収 → 給与所得
| 給与の年収 | 給与所得の計算 | 具体例(年収→所得) |
|---|---|---|
| 74万999円以下 | 0円 | 70万円 → 0円 |
| 74万1,000円〜219万999円 | 年収 − 74万円 | 136万円 → 62万円 197万円 → 123万円 |
| 219万1,000円〜219万9,999円 | 145万1,000円〜145万6,000円(特例の定額) | — |
| 220万円〜359万9,999円 | A × 2.8 − 8万円 | 300万円 → 202万円 |
| 360万円〜659万9,999円 | A × 3.2 − 44万円 | 500万円 → 356万円 |
| 660万円〜849万9,999円 | 年収 × 0.9 − 110万円 | 800万円 → 610万円 |
| 850万円以上 | 年収 − 195万円 | 1,000万円 → 805万円 |
※ A=年収 ÷ 4(千円未満切捨て)。660万円未満は正式には「給与所得控除後の給与等の金額の表」で求めます。年収850万円超で、23歳未満の扶養親族や特別障害者がいる場合は、所得金額調整控除(最大15万円)がさらに差し引かれます。
家族の年収がよくある金額帯のときの所得は、次のとおりです。黄色の行が控除の「壁」になる金額です。
| 年収 | 給与所得 | 年収 | 給与所得 |
|---|---|---|---|
| 100万円 | 26万円 | 170万円 | 96万円 |
| 110万円 | 36万円 | 180万円 | 106万円 |
| 123万円 | 49万円 | 190万円 | 116万円 |
| 136万円 | 62万円 | 197万円 | 123万円 |
| 150万円 | 76万円 | 200万円 | 126万円 |
| 163万円 | 89万円 | 207万円 | 133万円 |
早見表② 公的年金の収入 → 雑所得
親を扶養に入れるときは、年金の「所得」を計算します。国民年金・厚生年金・企業年金などが対象で、遺族年金・障害年金は非課税なので含めません。65歳以上かどうかで計算が変わります。
| 年金の収入 | 65歳以上 | 年金の収入 | 65歳未満 |
|---|---|---|---|
| 110万円以下 | 0円 | 60万円以下 | 0円 |
| 110万円超〜330万円未満 | 収入 − 110万円 | 60万円超〜130万円未満 | 収入 − 60万円 |
| 330万円〜410万円未満 | 収入 × 0.75 − 27.5万円 | 130万円〜410万円未満 | 収入 × 0.75 − 27.5万円 |
| 410万円〜770万円未満 | 収入 × 0.85 − 68.5万円 | 410万円〜770万円未満 | 収入 × 0.85 − 68.5万円 |
| 770万円〜1,000万円未満 | 収入 × 0.95 − 145.5万円 | 770万円〜1,000万円未満 | 収入 × 0.95 − 145.5万円 |
| 1,000万円以上 | 収入 − 195.5万円 | 1,000万円以上 | 収入 − 195.5万円 |
| 年金の収入 | 65歳以上の雑所得 | 65歳未満の雑所得 |
|---|---|---|
| 120万円 | 10万円 | 60万円 |
| 122万円 | 12万円 | 62万円 ← 扶養の上限 |
| 150万円 | 40万円 | 85万円 |
| 172万円 | 62万円 ← 扶養の上限 | 101.5万円 |
| 200万円 | 90万円 | 122.5万円 |
| 250万円 | 140万円 | 160万円 |
| 300万円 | 190万円 | 197.5万円 |
※ 年齢は令和8年12月31日時点。65歳以上=昭和37年1月1日以前生まれ。年金以外の合計所得金額が1,000万円以下の場合の表です。給与と年金の両方がある人は、それぞれの所得を合計します(所得金額調整控除が適用される場合もあります)。
【フローチャート】その家族、控除の対象になる?
従業員から一番多い質問が「この家族は書くの?書かないの?どこに書くの?」です。家族1人ずつ、上から順にたどってください。年齢はすべて令和8年12月31日時点、年収は給与だけの場合の目安です。
- 136万円以下 → 配偶者控除
- 136万円超207万円以下 → 配偶者特別控除
- 207万円超 → 対象外
- 16〜18歳・23〜69歳:38万円
- 19〜22歳:63万円(特定扶養)
- 70歳以上:48万円(同居老親等58万円)
記入先:基・配・特・所の申告書の「特定親族特別控除」欄(扶養控除の欄ではありません)
※ 障害者に該当する家族は、年収基準を満たせば年齢を問わず障害者控除の対象になる場合があります(16歳未満も含む)。社会保険(健康保険)の扶養基準は税金とは別で、このチャートとは一致しません。
家族の年収の「壁」早見表(令和8年分)
| 対象 | 年収(給与のみ) | 受けられる控除 | 控除額 |
|---|---|---|---|
| 配偶者 | 136万円以下 | 配偶者控除 | 38万円(70歳以上48万円) |
| 配偶者 | 136万円超207万円以下 | 配偶者特別控除 | 38万円〜1万円(段階的に減少) |
| 16歳以上の家族 | 136万円以下 | 扶養控除 | 38万円/63万円/48万円・58万円 |
| 19〜22歳の家族 | 136万円超197万円以下 | 特定親族特別控除 | 63万円〜3万円(159万円以下は63万円) |
| 本人が学生 | 163万円以下 | 勤労学生控除 給与以外の所得10万円以下が条件 | 27万円 |
| 本人(参考) | 178万円以下 | 所得税がかからない目安 | 基礎控除104万円+給与所得控除74万円 |
※ 配偶者控除・配偶者特別控除は、本人の年収が1,195万円以下(所得金額調整控除がある場合は1,210万円以下)の場合に限ります。本人の年収が1,095万円超になると控除額が段階的に減ります。
年末調整の書類の書き方(従業員向け)
まずは「誰が何を出すか」を整理しましょう。全員が出す書類と、該当者だけが出す書類があります。
全員
全員
該当者+証明書
該当者
該当者+証明書
① 扶養控除等(異動)申告書
令和8年分は、年初に提出した内容から家族の状況が変わっていないかを確認し、変更があれば二重線で訂正します。特に、改正で新たに扶養親族の対象になった家族(年収123万円超136万円以下)がいる場合は追加記入が必要です。令和9年分は、来年の見込みで新しく記入します。16歳未満の子は「住民税に関する事項」欄に忘れずに書きましょう。なお、令和9年分の申告書では、19〜22歳で年収174万円以下(所得100万円以下)の見込みの子は、毎月の源泉徴収で考慮される「源泉控除対象親族」として記入できます。ただし、年末調整で特定親族特別控除を受けるには、基・配・特・所の申告書への記入が別途必要です。
② 基・配・特・所 申告書(兼用様式)
次の順番で書くと迷いません。
- あなた自身の所得の見積額を計算し、基礎控除の額を判定(給与だけの人は、早見表①で出した給与所得がそのまま合計所得金額になります)。
- 配偶者がいる人は、配偶者の所得の見積額を計算し、配偶者控除か配偶者特別控除かを判定。
- 19〜22歳で年収136万円超197万円以下の子がいる人は、特定親族特別控除欄に記入。
- 年収850万円超で、23歳未満の扶養親族や特別障害者がいる人は、所得金額調整控除欄に記入。
どの欄も「年収」ではなく「所得」を書くのがポイントです。家族の所得は「今年1〜12月の見込み」で書くので、パートの12月分まで含めて見積もってください。去年の金額をそのまま写すのはNGです。
③ 保険料控除申告書
生命保険料は「新・旧」「一般・介護医療・個人年金」の区分ごとに、証明書に記載された金額を転記します。令和8年分は、23歳未満の扶養親族がいる人の一般生命保険料控除(新契約分)の上限が4万円から6万円に引き上げられています。国民年金保険料やiDeCoの掛金も、自分で支払った分は証明書を付けて記入します。
会社側のチェックリスト
回収した申告書は、次の観点で確認します。社内で共有してチェック漏れと属人化を防ぎましょう。
扶養控除等(異動)申告書
- 全員分が提出されているか(未提出者は乙欄扱いで年末調整の対象外になる)
- 生年月日から、特定扶養(19〜22歳)・老人扶養(70歳以上)の区分が正しいか
- 16歳未満の子を控除対象扶養親族にしていないか
- 家族の年収が136万円以下か(改正後の基準で判定しているか)
- 「特定親族」を扶養控除の対象にしていないか (特定親族特別控除は別の申告書)
- 夫婦や兄弟で同じ家族を重複して扶養にしていないか
- 年の途中の結婚・出産・就職・死亡などの異動が反映されているか
基・配・特・所 申告書
- 「所得」欄に年収が書かれていないか
- 本人の年収が1,195万円超なのに配偶者控除を受けていないか
- 配偶者の所得見積額と、配偶者控除・配偶者特別控除の区分が一致しているか
- 特定親族が扶養控除等申告書にも「特定扶養親族」として重複記入されていないか
- 計算結果(控除額)の転記ミスがないか
保険料控除申告書・その他
- 控除証明書の添付漏れがないか (勤務先の団体特約に基づく保険料は、会社が金額等を確認すれば不要)
- 新・旧の区分、介護医療・個人年金の区分が証明書と一致しているか
- 証明書の「申告額」(12月までの見込額)を使っているか
- 中途入社者の前職の源泉徴収票を回収し、給与・社会保険料・源泉徴収税額を合算したか
- 住宅ローン控除は、令和8年分の申告書と控除証明書がそろっているか (証明書方式の場合は年末残高等証明書も必要。調書方式の場合は不要)
大量の申告書をさばくための効率化アイデア
1. 配付時に「記入見本+早見表」をセットにする
この記事の早見表やフローチャートのような1〜2枚の案内を申告書に同封するだけで、問い合わせと差し戻しは目に見えて減ります。「今年の変更点」「提出物チェック」「よくある間違い」の3点に絞るのがコツです。
2. 提出期限を前倒しし、差し戻しは一括で
不備を見つけるたびに個別連絡すると、担当者の時間が細切れになります。一次チェックを終えてから、不備リストをまとめて部署ごとに返すほうが効率的です。
3. 年末調整手続の電子化を検討する
国税庁は、従業員が申告書をデータで作成できる「年末調整控除申告書作成用ソフトウェア(年調ソフト)」を無償提供しています。マイナポータル連携を使えば、生命保険料などの控除証明書データをまとめて取得でき、控除額も自動計算されます。勤務先が申告書データを受け取る際の税務署への事前申請は、令和3年4月以降不要になっています。導入手順は国税庁の「年末調整手続の電子化に向けた取組について」にまとまっています。
| 方式 | 従業員 | 会社 | 向いている会社 |
|---|---|---|---|
| 完全電子化 | 証明書もデータで取得し、申告書をデータで提出 | 給与システムにインポートするだけ | 給与システムがデータ取込みに対応 |
| 部分電子化(申告書だけデータ) | はがきの証明書を見て入力し、データで提出 | インポート+紙の証明書の保管 | 保険の証明書がまだ紙の従業員が多い |
| 部分電子化(印刷提出) | ソフトで作成して印刷し、紙で提出 | 手入力・紙保管が残る | まずは記入ミスを減らしたい会社 |
※ 国税庁「年末調整手続の電子化の進め方(勤務先編)」をもとに作成。いきなり完全電子化が難しくても、「年調ソフトで作成→印刷して提出」から始めるだけで計算ミスはかなり減ります。
- 「所得」欄に年収(総支給額)を書いている
- 家族の所得を前年の実績で書いている(本年1〜12月の見込額で書く)
- 19〜22歳でアルバイト年収136万円超の子を「扶養控除」の欄に書いている
- 控除証明書の添付漏れ
- 中途入社者の前職の源泉徴収票が提出されていない
まとめ
令和8年分の年末調整は、扶養の基準が「年収136万円」に、19〜22歳の特定親族は「197万円」に、配偶者特別控除は「207万円」に変わりました。従業員の判断に任せきりにせず、会社側で「早見表を配る」「期限を前倒しする」「チェック観点を共有する」だけで、年末調整は確実に回りやすくなります。
社員が多い会社ほど、1人あたり数分の差し戻しが積み重なって大きな負担になります。今年の改正をきっかけに、配付物とスケジュールを一度見直してみてはいかがでしょうか。
参考(国税庁):「令和8年分 年末調整のしかた」「年末調整がよくわかるページ」「年末調整手続の電子化に向けた取組について」「源泉徴収票のみなし提出の特例 特設ページ」。本記事は令和8年分(2026年分)の制度に基づく一般的な解説です。個別の判断は税務署・税理士にご確認ください。

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