5億円で買ったフェラーリを8億円で売ったら、税金はいくらか──判例と条文から検証する

確定申告

エイベックスの松浦勝人会長が、所有していたフェラーリを売却した際の課税について「実際以上の利益があったとして課税される」とX(旧Twitter)で問題提起し、大きな反響を呼びました。これを受けて、税理士YouTuberの菅原由一氏(「脱・税理士スガワラくん」)が動画で解説し、独自の見解を示しています。

脱・税理士スガワラくん「超高級車の売却で大問題…avex松浦会長を困惑させた意味不明のルールとは?」

しかし、この論点にはすでに最高裁まで争われて確定した判例があります。

結論

先に数字を示します。5億円で取得したフェラーリを6年保有し、8億円で売却した場合、所得税・住民税は約1億6,478万円(最高税率の場合)。差益3億円のうち、半分強が税金として出ていく計算です。

なぜこうなるのか、そしてこの金額は妥当なのか。論点を整理すると次のようになります。

  • 「希少価値の高いフェラーリは減価償却資産ではない」という主張は、裁判で否定され確定しています(東京地裁令和5年3月9日判決 → 東京高裁令和5年11月30日判決 → 最高裁令和6年6月27日 上告棄却・不受理)。
  • 裁判所は、自動車は原則として「時の経過によりその価値の減少しない資産」に当たらないと明言しました。ストラディヴァリウスや古美術品とは区別されます。
  • ただし動画の税額シミュレーションは、条文が定める計算方法とは異なる簡便な方法で組まれており、税額が過大に出ています。
  • 一方、松浦会長が指摘する「経済的に損をしていても課税される」という問題自体は、判例を前提としてもなお残ります。

1. 何が問題になっているのか

松浦会長の問題提起

まず、松浦会長がXで述べた内容を整理します。

税金を払うこと自体に文句はない。しかし日本では、実際には支払っていない経費まで「支払ったもの」とみなされ、実際以上の利益があったとして課税される——これが問題提起の核心です。5億円で取得した世界数百台限定のフェラーリについて、日本の税負担は約1.7億円という数字が挙げられました。

さらに国際比較として、同じケースでイギリスやドイツは0円、アメリカでも日本の6割ほどだと指摘。そのうえで「僕の車を買いに来たのは日本人ではなく海外の方ばかりで、結局ヨーロッパへ売ることになった」「こうした税制もまた、日本の資産を海外へ流出する結果を生んでいる」と結んでいます。

課税の仕組み

コレクション目的・投資目的で保有する車は、所得税法施行令178条1項2号にいう「生活に通常必要でない資産」に当たります。通勤や買い物に使う自家用車のような非課税扱い(所得税法9条1項9号)にはならず、売却益は譲渡所得として課税されます。

問題は、その計算方法です。所得税法38条2項は、業務に使っていなかった期間についても、減価償却をしたものとみなして取得費を減らすと定めています。いわゆる「みなし減価償却」です。

実際には経費計上していないのに、売るときだけ「償却済み」として扱われる。松浦会長が「実際には支払っていない経費まで支払ったものとみなされる」と表現したのは、この構造を指しています。

菅原氏の見解

動画で菅原氏は、まず前提として、生活用の動産の売却には税金がかからないこと、しかし趣味のコレクションや投資目的で持っているものを売れば譲渡所得になることを整理します。したがって、この5億円の車を「生活用として乗っているのか、コレクション・投資用として持っているのか」で結論が変わる、と。

そのうえで、菅原氏は独自の見解を打ち出します。

そもそも減価償却とは何か。使ったら価値が下がるものを、会計上の計算式に当てはめて費用化していく制度である。だから土地は減価償却しない。絵画も100万円以上のものは原則として減価償却しない。ところがこの車は価値が下がっていない、むしろ上がっている——。

さらに、こう続けます。仮にこの車を法人で購入して減価償却していたら、税務調査で「こんな価値の落ちない車を減価償却してはいけない」と否認されるはずだ。法人でそう扱われるなら、個人でも減価させないのが筋ではないか。世界数百台限定という希少性もある。

結論として菅原氏は「普通に8億と5億で、これでいいんじゃないかなって僕は思う」と述べ、みなし減価償却を適用せず、単純に売却価額から取得価額を引いた3億円を利益とすべきだという見解を示しました。「これが脱税理士スガワラが出す答え」というわけです。

ただし菅原氏は、この見解について「その理屈が通るかどうかやけど」とも付け加えています。断定はしていません。

一見すると、非常に納得感のある議論です。しかし、この論点についてはすでに裁判所の判断が出ています。

2. 同じ主張が、すでに裁判で否定されている

ほぼ同じ論理構成で国と争った事案があります。

昭和43年開業の事業者がフェラーリを複数台所有し、平成27年・28年に売却したところ、税務署長がみなし減価償却額を控除して更正処分を行いました。納税者は「希少価値のあるフェラーリは時の経過により価値が減少しない資産だ」と主張して争いましたが、納税者敗訴で確定しています。

訴訟で中心になったのは2台です。フェラーリF50は1995年から349台限定で製造されたモデルで、取得時は製造から約2年、売却時でも約18年。フェラーリ512TRは新車で取得し、売却時で製造から約24年でした。

裁判所の判断

第一に、判断は個別の値動きではなく「類型」で行う。 減価償却は、価値の目減りを個々の資産ごとに正確に測ることが不可能であることを前提に、類型ごとに擬制する制度です。だから「この車は現に値上がりしている」という個別事情は、結論を左右しません。

第二に、自動車は原則として減価する資産である。

自動車の本来の効用は、人や物を乗せ、原動機の動力によって車輪を回転させて路上を走ることにあるところ、経年や使用によって原動機の性能が低下したり、その構成部品が劣化したりすることによって、その機能は一般的・類型的に逓減していくものであり(中略)自動車は、原則として「時の経過によりその価値の減少しない」資産には該当しないものというべきである。

第三に、美術品の「100万円基準」は車に及ばない。 所得税基本通達2-14(2)は「美術品」の内部での線引き基準であって、美術品でない資産には適用されません。判決は、仮に自動車を工芸品と解すれば「ほぼ全ての自動車が美術品とされるという極めて不合理な結論を招来する」と指摘しています。

第四に、「希少価値」の意味が違う。 ここが決定的です。

「希少価値」や「代替性のない」との文言もかかる文脈において理解されるべきであり、単に市場における希少性等によってその価格が(せいぜい数年単位の期間で)高騰しているにすぎないような場合を含むものではない。

例外が認められるのは「骨とう」=古美術品、古文書、出土品、遺物等に類する程度の長期間を経てもなお高い価値を維持している場合に限られる、というのが裁判所の立場です。判決は、法人税基本通達7-1-1の創設経緯において古美術品等が一般に100年以上前のものと理解されていた点にも言及しています。

ストラディヴァリウスとの違いも明確に整理されました。200年以上にわたり一流のヴァイオリンとして価値が確立しているものと、製造から18年・24年の車とは同列に扱えない、と。

さらに判決は、F50の価格高騰が平成25年頃から始まった「オークション・バブル」によるものとうかがえるとし、フェラーリの他車種では高額落札後に供給増で値下がりした例もあることから、今後の価格推移は不確定だと認定しています。

3. 菅原氏の見解が通りにくい理由

以上を踏まえると、動画の主張はいずれも判例の枠組みと衝突します。

「値上がりしているから対象外」は、類型判断という枠組みの前で成り立ちません。「絵画100万円ルール」は美術品限定の基準です。「世界数百台限定」という希少性も、数年単位の市場高騰は含まれないと明言されました。ストラディヴァリウスとの類比も、判決が正面から否定しています。

とくに「法人なら税務調査で否認されるはず」という論拠については、補足が必要です。判決は、法人税基本通達7-1-1について「基本通達2-14と同時期に整備され、これと同内容の取扱いを定める」ものだと明言しています。つまり両者は同じ内容の定めです。

そうであれば、所得税の場面で「限定車は希少価値があるから減価償却資産ではない」という主張が退けられた以上、同じ論理は法人税の場面でも同様に働くと考えるのが自然でしょう。少なくとも「価値が下がらないから」という理由だけで法人の減価償却が否認されるとは限りません。動画は「法人なら否認される→だから個人でも減価させないのが筋」という対称性で議論を組み立てていますが、その前提は必ずしも堅固ではないことになります。

もっとも、菅原氏自身も「多分否認されるはず」「その理屈が通るかどうかやけど」と述べており、断定はしていません。なお本判決は法人税の取扱いそのものを判断したものではないため、この点は今後の実務の蓄積を待つ部分でもあります。

4. 計算方法にも確認が必要

判例とは別に、動画の税額シミュレーションについても触れておきます。

動画では、保有5年の場合の減価償却費を4億1,665万円(したがって取得費8,335万円)、保有4年の場合を3億3,332万円(取得費1億6,668万円)として計算していました。これは5億円を法定耐用年数6年で割った年8,333万円を前提とする数字です。

しかし非業務用資産の減価の額は、法定耐用年数の1.5倍の年数で、旧定額法により計算すると定められています(所得税法38条2項2号、所得税法施行令85条)。

減価の額 = 取得価額 × 0.9 × 旧定額法の償却率 × 経過年数

普通乗用車なら6年×1.5=9年、9年の旧定額法償却率は0.111。5億円 × 0.9 × 0.111 = 年4,995万円です。動画の前提とは年3,338万円の差があります。

5億円で取得し8億円で売却したケースで比較します。なお所得税法33条3項1号により、短期・長期の分かれ目は「取得の日以後5年以内」かどうかです。5年ちょうどでは2分の1課税は使えず、5年を超えて初めて長期譲渡となります。

保有6年(長期譲渡)なら、施行令85条による減価の額は2億9,970万円、取得費2億30万円、譲渡益5億9,920万円。その2分の1が課税対象となり、最高税率55%で税額は約1億6,478万円です。

保有4年(短期譲渡)について、動画は「3億4,900万円で利益以上になる」としていました。施行令85条では減価の額1億9,980万円、取得費3億20万円、譲渡益4億9,930万円。全額が課税対象で税額は約2億7,462万円となり、利益3億円を下回ります。つまり「利益以上に税金がかかる」という現象は、条文どおりの計算では起きません。

なお、施行令85条による水準は、松浦会長がXで示した「日本は約1.7億円」とよく整合します。動画の出発点はスタッフが持ち込んだネット記事の「3億4,900万円」という数字で、菅原氏自身も冒頭から「まだ答えははっきり出ていない」「僕もウェブ上の記事でしか見ていないので何とも言えない」と繰り返し留保しており、記事の数字を再現しようとした結果と見るのが自然でしょう。

5. それでも残る制度の問題

ここまで検証してきましたが、松浦会長の問題提起自体は的を射ています

5億円で買ったフェラーリを6年保有し、3億円で売却したとします。実際には2億円の損です。それでも減価の額2億9,970万円が控除されるため取得費は2億30万円となり、譲渡益9,920万円が発生。その2分の1が課税対象となり、税額は約2,728万円です。

2億円の損失を出しているのに、約2,728万円の所得税・住民税が課される。しかも生活に通常必要でない資産の譲渡損失は、他の所得と損益通算できません(所得税法69条2項)。

判決はこれに対し「非業務用資産であってもその使用によって帰属所得が生じている」という説明を用意しています。乗って楽しんだ分の便益を得ているのだから、取得費をそのまま残すのは相当でない、という理屈です。理論的には筋が通っています。

しかし、帰属所得の大きさとみなし減価償却額が対応している保証はありません。5億円の車を6年持ったからといって、3億円分の便益を享受したと言えるのか。ここは疑問の余地があるでしょう。

冒頭で触れた国際比較についても、制度の背景を確認しておきます。イギリスでは1992年キャピタルゲイン税法263条により、乗用のために製造された自動車がそもそも課税対象資産から外れています。耐用年数50年以下の「減価する資産」という整理で、クラシックカーも含めて非課税です。ドイツでは所得税法23条により、動産の私的売却は取得から1年を超えて保有すれば非課税となります。

日本の制度が特異というより、動産のキャピタルゲインをどこまで捕捉するかという設計思想が、国によって大きく違うということでしょう。松浦会長が指摘する資産の海外流出という論点も、この差から生じています。

まとめ

「希少価値の高いフェラーリは減価償却資産ではない」という解釈論は、判例上すでに決着がついています。自動車である限り、限定車でもクラシックカーでも原則として減価償却資産です。

一方で「経済的に損をしていても課税される」という問題は残ります。これは解釈論ではなく立法論として議論すべきテーマでしょう。

税法の解釈は、直感的な納得感と必ずしも一致しません。「値上がりしているのに減価償却するのはおかしい」という感覚は自然でも、制度は類型ごとの擬制の上に成り立っています。感覚ではなく条文と判例に当たることの大切さを、あらためて感じさせられる一件でした。


参考

  • 東京地方裁判所 令和5年3月9日判決(令和2年(行ウ)第323号)/LEX/DB 25572973
  • 東京高等裁判所 令和5年11月30日判決(令和5年(行コ)第90号)/LEX/DB 25621889
  • 最高裁判所第一小法廷 令和6年6月27日 上告棄却・上告不受理/LEX/DB 25629072
  • 所得税法9条1項9号、33条、38条、49条、69条/所得税法施行令6条、85条、178条
  • 所得税基本通達2-14、38-16/法人税基本通達7-1-1
  • YouTube「脱・税理士スガワラくん」2026年7月21日公開動画

本記事は公表された裁判例等に基づく一般的な情報提供であり、個別の税務判断を行うものではありません。実際の申告にあたっては顧問税理士等にご相談ください。松浦会長の実際の申告内容は公表されておらず、本記事中のシミュレーションは仮定計算です。

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